中川のカワセミ

4年生の皆様,ご卒業おめでとうございます!言い古されたことですが,卒業はゴールではなく人生のスタートです.自らの力で切り拓く道々の間に,自分だけの幸福を手にしていくことを心から望んでいます.

さて,それはさておき予定原稿は粛々と掲載されるのであった.

私は朝日大学への着任後3年弱を瑞穂市で過ごし,9年強を職場から離れた場所で暮らし,再び瑞穂市へ戻ってから2年弱となる.最初の3年は,正直なところ「職場のある街」というだけで瑞穂市に関心はなかった.どのスーパーに何が売っているとか,近隣の古書店やPCパーツ店はどこに散らばっているかの方が重要な情報だった.早くも朝日大学に都合15年ほど勤続し続け,地域研究や教育のフィールドとしての知識と理解の蓄積,市政とのつながりなどを通じて,ようやく瑞穂市の特徴がヨソモノながらに見えてくるようになってきた.
瑞穂市は,良くも悪くも,川の街である.水害の話をすると市役所方面は嫌がるが,それは厳然とした事実である.一方で,編み目のような河川が織りなす美というものが,瑞穂市特有の景観を作り出している.一般的に,瑞穂市の河川は北西に向かうほど清浄になっていく.たとえば犀川.中山道美江寺宿から入った若宮神社近辺の河川公園も美しいが,その対岸のスーパー駐車場から見る川越しの柿畑の景観.さらに下流の県道204号線から上流を見渡したときの流れのカーブと護岸の優美さ.そこから下った“向かい地蔵”と受念寺・津島神社の荘厳さ.さらに遙かに下流になるが,さい川さくら公園においても,まだ水は十分な透明さを保っている.まさに“清流”と呼ぶにふさわしい河川である.というか,どうして観光資源として有効活用ができていないのか,不思議でならない.
一方,中川である.大学の裏を流れている,最もなじみ深い川であるにもかかわらず,今ひとつ良い感情が湧かない.現在,私は徒歩で毎日のように中川を渡り通勤しているが,言ってしまえば“ドブ川”である.水の濁りは犀川と比べようもなく,状況によっては何とも言えない悪臭を放つこともある.これも着任早々には「うわっ,水の汚いところだな」と単純に思っていた.だが,今では致し方ない事情も承知している.そもそも大学周辺地域は『悪水が逆流する』場所であり,だからこそ牛牧閘門を造った川崎平右衛門が神として祀られているのだ.さらに,合併浄化槽の普及問題,下水道構築の(町政策の歴史的経緯による)問題など,単純に行政や地域を悪罵すれば済む事情ではないことは重々承知している.
それでも,中川は浄化できないだろうかと強く願う.それは,いつもの通勤路で,カワセミを目撃したからである.私は(瑞穂市も含めて)人口密集地にしか住んだことがなく,カワセミというのは,非常な清流にしか生息しない,自然の中の鳥だと思っていた.40歳近くになり,岩手県岩泉町で初めてその飛翔を目撃した時には,大感激したものだった.ところが,裏のドブ川だと思っていた中川にカワセミがいる.近隣では春近の親水公園で見かけた時も衝撃だったが,あちらは住宅地と田園地帯の境界である.まさか,職場の裏の,毎日渡っている川に,カワセミが!ぽっぺん先生もビックリである(ちなみに博士号を持たない理系の助教授は実在しない).中川の近辺には,帰らずの沼にも負けないほどの,多様な生物相が存在する.鳥類ではカワセミの他に,渡り鳥であるカモ類,シギやサギ,セキレイなどの小鳥も多い.魚は…橋の上から仰天するほどの(地獄絵図にも思えるような)鯉の群れが見えるのをはじめ,多種多様なようである.水辺のカエル,道に長々と寝そべっているヘビなどもおり,悪名高いヌートリアも,ちょくちょく出くわすほどに生息している.
ここで提案がある.中川を犀川のような清流にすることはできないだろうか.現在,市では下水道の整備計画が進んでおり,その実現の暁には,水質改善は進むかもしれない.一方で,市民の高い意識がなければ,(使用料のかかる)下水道への接続は進まず,汚水の垂れ流しは続くことになる.
川崎平右衛門の例を再び引く間でもなく,瑞穂市の歴史は水との闘いと共生の歴史でもあった.中川が清流となり,住宅地と商業施設の間をカワセミが飛び回り,水辺の動植物が繁栄するには,相応の努力が必要となるだろう.だが,それは市民の憩いの場となるだけではなく,市外にも『清流の街,水辺の生物と共生する街,瑞穂市』をアピールする象徴ともなるのではないだろうか.
犀川,五六川,(市外ではあるが)糸貫川など,清流を利用した親水公園の多い土地柄である.その清流に中川が仲間入りすること.そのための新たなる水との闘いと共生を行う知恵の結集を,カワセミのためにも始めなければならない時が来たと思う. (畦地)

 

*参考文献:「ぽっぺん先生と帰らずの沼」(舟崎克彦/岩波少年文庫)

関連記事

  1. 2018年度卒業式が挙行されました

  2. セイノーグループでの産業実習

  3. ゴールデンウイーク

  4. 専門探し

  5. 欠席と現在バイアス

  6. 就活ファイナル

  7. 自治会避難訓練と防災活動

  8. ゼミ成果発表会

  9. メッセナゴヤ2015とゼミ紹介

最近の記事