前回までは学校の勉強は役に立たなくても、遊びが社会で役に立つ例をゲームで考えましたが、
先週の山本先生のコラムのように勉強は遊びに役に立ちます。つまり、勉強は遊びに役に立ち、遊びは社会で役に立つので、勉強は社会で役に立つのです。ウソーと思う人には、イギリス発祥のダーツというゲーム(スポーツ)にトライしてみてください。

ダーツは的に矢を投げて得点を競う遊びですが、正式には相互に3回ずつ投げ、501点からとった得点を引いて、早くぴったり0点になった方が勝ちというゲームです。的の得点は扇形に切り分けられて1から20点になるのですが、ゾーンの一番外側の台形に入ると2倍、内側の小さな台形に入ると3倍の得点になります。差し引き0点とする最後は2倍の得点ゾーンで終わらなくてはいけません。
昔イギリス人と仕事をするので一生懸命ダーツを練習しました。しかし、ある程度正確に投げられるようになっても、どうしてもイギリス人には勝てませんでした。パブという飲み屋で飲みなら遊ぶのですが、計算が分からなくなるのです。64点残っていると、僕なら20点の3倍を狙い、うまくいったら2倍で4点になる2の外側になげようとします。すると隣のイギリス人がげらげら笑いながら「ジェームズ(僕のあだ名)は計算下手だなあ。16の倍を狙うに決まっているじゃないか。なぜ20の三倍を狙うのだ。」とのたまうのです。
「16の二倍を狙うと入れば残り32、はずれても残り48、もう一回16に当てると残りは32で、次に2回練習した同じゾーンの16の倍に入る確率は上がるぜ。外しても残りは16で、次の回で8の倍を狙えば上がりだ。外せば残り8で4の倍を狙い、外せば残り4で2の倍を狙い、どれかが入れば上がりだろ。おめぇ勉強苦手だっただろ。ガハハハ。」どんな点が残っても即答で解説してくれます。そのたびに、おめぇバカだろといわれて、僕のあだ名もジェームズからマニーペニー(ジェームズボンドの秘書)に格下げされました。
彼らが特段お勉強好きなのではありません。イギリスは階級社会で、中流の下の方の人たちは普段はおつりの計算も苦手です。しかし、ダーツは毎日のようにパブで遊んでいるので、繰り返しで自然と計算が頭に入っているのです。残りが117だったら、あるいは72だったらどう投げるか考えてみてください。計算が得意な人もちょっと考え込むでしょう。彼らは即答。これでは、いくら投げ方を覚えてもこちらに勝ち目はありません。
こうしてダーツの腕をあげ計算が得意になった人は、証券会社のトレーダーを目指します(イギリスでは中流の上以上で金融に興味のある人は、トレーダーなどを志望せず投資銀行を目指します。ですからトレーダーはパブでダーツをやるクラスの人たちが大半です)。そして、そのうちの何人かは、複雑な金融取引を理解し、即座の計算能力を活かして成功者として上の階級への道を歩きだします。遊びが勉強を促し、その勉強が社会の階段を上るのに役立つのです。 (岩崎)