No.731 逃げられない

 59日(木)に全学FD研修会が行われ、兵庫県立大学院名誉教授・本学客員教授の小山秀夫先生による医療経営に関するご講演がありました。質疑応答で挙手する人がいなかったため、現在かかわっていることについてのヒントをいただければと思いご意見を求めたところ、大変に熱のこもったお話しをいただくことができました。その中で特に心に響いたのが、タイトルに挙げた「逃げられない」という言葉です。

 私からの質問内容は、地域包括ケアシステムの構築・運用において、やる気のある自治会長さんや民生委員さんに仕事が集中し、クタクタに疲れ切ってしまう状況をどうにかできないかということです。現在私は瑞穂市の地域包括ケアシステムに、朝日大学の教員としていわゆる「第一層協議体」に関わっており、瑞穂市民として「第二層協議体」に関わっています。その中で目にしているのは、自治会長さんや民生委員さんに1人何役も、何十事業もの作業が課せられており、仕事量が大きい人だと、普通にフルタイムで働いているのと変わらないような状態になっていることです。ちなみに皆さん基本的にはボランティアで、いくばくかの報酬(弁償費・活動費)は自治体から支給されますが、およそ月額5000円といったところです。金銭的な損得だけで考えるとまるで割に合いませんが、少しでも地域を良くしようという志で動いている方が大半です。

 以下、小山先生のお答えを畦地が勘違いしている可能性もありますが、心に刺さった「逃げられない」という言葉について書きます。なぜ一部のやる気のある人にだけ仕事が集中するのか。それは多くの日本人が「誰かがやってくれるなら自分は逃げよう」という考え方に染まってしまっているからではないかということです。私も他人を責めることはできません。転勤族の家庭に生まれ、マンション暮らしが長く、自治会活動に参加するようになったのは瑞穂市内に一戸建てを購入した数年前からです。学内の仕事でも、極力労力のかかることはやりたくないし、正直なところ(できるだけ減らして欲しい)授業以外の時間は研究室内でずっと本を読んで過ごしたいです。

 しかし、すでに日本は誰もが「逃げられない」状況に陥っています。確実に人口が減少する一方で高齢者の人口比率が増大し、将来的に社会保障制度が機能しなくなる可能性が高くなっています。転勤族だろうがマンション族だろうが大都市圏住民であろうが、日本国内に居住する限りは、この危機からは「逃げられない」状況です。

 地域包括ケアシステムは、社会保障制度の壊滅的な崩壊を防ぐため、地域で助け合い(見守り合いや様々な意味とレベルでの支援のし合い)をしていくための地域づくり、社会造り、コミュニティ創りの取り組みです。厚労省的な意味合いとしては上述の通りですが、要は地域住民が地域コミュニティから「逃げられない」ことを自覚し、互いに支え合っていかなければ生きていけないという、厳しい時代が既にやってきているということです。

 これは封建的な村社会や“隣組”の復活のようにも考えられるかもしれません。“ムラ”の弊害については、私自身も過去に分析し、否定的に描いたこともあります(畦地、2015/リンク先は朝日大学リポジトリ)。ただ、村社会への回帰であろうが、隣の家の中をのぞき込んで上がり込みお節介をする“田舎暮らし”であろうが、なりふりかまわずコミュニティを再構築しなければ社会保障が成立しない、すでに国や自治体に頼ることはできないというのが、日本社会の直面する現状となっています。

 そのような“ムラ”の中では、村長(ムラオサ)の指示に従って“ゆい”や“もやい”を行わない、「誰かがやってくれる」ことにただ乗りする者(フリーライダー)には“村八分”の制裁が加わります。これは全く民主的ではありませんし、私の本音としては「村八分にできるものならやってみろ(八つ墓村的な意味で)」もしくは「村八分をする側に回ってやる(パワーモンガーの本性)」としか思いません。ただ、多くの都市部ではコミュニティの仕組みが崩壊し、維持されている地域では人口減少によって崩壊しつつある中で、他に代わる社会システムが存在しないことが、一部の人間に過剰な(地域)福祉(ボランティア)労働が集中してしまっている原因となっています。

 小山先生は「家族から逃げられないのと同じく、地域コミュニティからは逃げられない。コミュニティは共同作業でつないでいくものである」と(畦地のメモに間違いがなければ)おっしゃっていました。“ムラ”への回帰は避けたいことこの上ないのですが、それでは我々は互いに少しずつ労力を提供することで維持が可能な、どのような地域コミュニティを作っていかなければならないのか。考え、行動する猶予は、もうそれほど残されていないと痛感した研修会でした。(畦地)

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