No.696 17年

 

頭でっかちで体も動かせない赤ん坊が人らしく歩けるには何年もかかります。さらに自分はどのような存在か納得し、世の中の仕組みとも折り合って社会生活が普通に送れるようになるには、20年近い歳月が必要です。17歳の歌が多いのは、年をとり大人になって当たり前となった日常の中で、それが当たり前ではなかった自分を思い出せる最後の時期が17歳前後だからかも知れません。赤ん坊ではありませんでしたが、大学で教員の仕事を始め、同じくらいの年月が過ぎようとしています。

その年の3月から新しい学科の設立準備を進め半年、9月のその週は文科省に提出した書類に従ってカリキュラムと各シラバスの調整を行い、4月に着任する先生がすぐ授業をスタートできるよう残業が続くなか10時過ぎに帰宅し、前日の台風も気になりテレビをつけると、いきなりその光景でした。青い空に浮かぶ見知った高層ビルの屋上付近からおびただしい灰煙が立ち昇っています。現実感がわかず、しばらくぼーっと見つめていました。キャスターは飛行機がぶつかったようだと報じています。前年まで勤めていた会社のニューヨーク支店があるツインタワービルです。

ビルの大きさから小型飛行機ではないぞ。あそこは70階以上かな。オフィスは80階だっけ、大変だ。ちょっと待て、事務所は南棟だ、飛行機がぶつかったのはどっちだ? 映像から見ると北側に見えるな、キャスターも北棟だと言っている。なら、大丈夫だ、もう避難は始めただろうけど1階降りるのに30秒としても40分以上かかるな、落ち着いて行動できているだろうか。責任者は同期でいつでも冷静なA君だったな、かーっとなる僕には無理だが彼なら。大学に来なければ僕があそこにいた可能性は高かったな。何とか無事で。南棟に何かの影が、飛行機か! 逃げ切れただろうか…。その後1時間で南棟は崩壊し、翌日以降も僕の友人や後輩の安否はわからずじまいでした。

今年と同じ火曜日に起こった「9.11米国同時多発テロ」は、第二次世界大戦も冷戦も終結しそれまで築き上げた自由と民主主義を無辜な赤ん坊のように信奉していた先進国世界が、冷酷な世界の現実に生まれ落ちた日とも言えます。あれから先週で17年、僕たちの世界は本当に大人になれたのでしょうか。イギリスのEU離脱やヨーロッパでの極端な政党の隆盛、米国でのトランプ大統領の誕生や東アジア情勢を見ると、世界は思春期と同じく平時の混迷の中とも見えます。多くの友人を同時に失い毎年新たにするのは、彼らに恥じぬよう僕等の子ども達に何かを残したい思いです。小さな違いや面子にこだわらず他人の話に耳を傾け共感できる点を見出し、力をあわせ精一杯生きようという誓いです。敵対や憎悪、無関心の連鎖ではなく、この思いを共有するために彼らの犠牲はあったのだと信じます。世界を大人に変えるのは、僕たち一人ひとりです。 (岩崎)

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