No.709 出口の言葉

 ラグビーワールドカップでの日本代表には勇気づけられました。単に大きい相手に勝ったことだけでなく、日本にいる生まれや育ちの異なったメンバーが共に不可能を可能にしたことに鳥肌が立ちました。何世代も日本に住んでいる人だけでは、体格差の違いを勝敗の言い訳にしないこのチームの考え方や心構え、行動は生まれなかったかもしれません。実は同じような化学反応が、小規模ながら大学の中で最近起こったのです。

 Hanb709b経営学部の松井先生の仕掛けで、イギリスから演劇集団Phakamaの指導者コリンさんとチャーリーさんが来日し、目を見て相手の名前を呼びボールを投げ合ったり、手元を見ないで相手の顔を描いたりするコミュニケーションの授業を実践してくれました。この中から多言語での演劇参加を希望する学生(日本人、中国人、ベトナム人)が生まれ、トレーニングを受けて可児市の外国人少年のための進学支援教室「さつき教室」の生徒15名と合同で芝居を創ったのです。フィリピンや中国出身の子供達と劇のシナリオを練り上げました。日本語、英語、中国語、ベトナム語が電報ゲームのようにつながり、非言語表現をたくさん使ってももう無理、とも思いながら続けた苦闘だったようです。

 芝居の上演は、朝日祭の最終日に6号館の4階の教室、廊下、エレベーター全体を使って行われました。観客を巻き込んでの即興劇、観客はそれぞれ道を選び、その先で出会った多言語の子供達が身の回りのものを巧みにいかしながら、なぜ日本に来たのか、どんな気持ちなのか、これから何をしたいのかを一人ひとりに伝えます。そして最後には観客も全員同じバスに乗って旅立ちます。バスの終点で子供達がそれぞれの道に旅立つと、観客だけがぽつんと残されます。そこに忘れ物を取りに戻ってきた役者が「あれ、なぜ自分の旅に歩き出さないの?」と観客に問いかけて芝居は幕となりました。

 芝居後の振り返りで、観客から最後の台詞で自分の足で進まなきゃ、という気持ちになった感動が語られます。出演した生徒の姉は、「弟は今週教室に行きたがらなかったが、この場所には喜んで参加した」と話し、まだ日本に来て間もなく中国語しか話せず、激しい疎外感無力感を味わっていた出演者Hanb709cは、参加することによって忘れていた人の触れ合いの楽しさ暖かさを、言葉が通じなくとも共通の体験で見出せたと、感謝を伝えます。学生もうまく通じ合えないつらさを乗り越えて、生徒と相談して生み出した最後の台詞がこれだけ大きな感動を生んだことに達成感を味わっていました。皆の心が動いていました。

 今回のラグビーの勝利は助っ人外人が多く入っていたからで、日本の勝利ではないとの見方をしている人もいるでしょう。しかし、見かけの顔つきや言葉、習慣を越えて目的を一つにし、何とか貢献しようと務め、必死で意思疎通を図るとき、僕たちの想像を越える何かを手に入れられるのです。古代ローマの繁栄を築いたシーザーは、寛容(クレメンティア)を説き、市民権を他民族にまで与えました。今の日本にとっても同じ言葉が、閉塞感の出口に刻まれているのではないかと実感する体験でした。 (岩崎)

関連記事

  1. No.719 赤ちゃんの能力と成長

  2. No.731 逃げられない

  3. No.835 自分で判断する癖

  4. No.814 早朝、深夜の買い物と消費行動に関するマーケティングデータ②

  5. No.789 ピーターパン味覚シンドローム

  6. No.762 コミュニケーションが価値を創る

  7. No.690 試験はなぜやるの?

  8. No.818 卒業生からの伝言

  9. No.821 早朝、深夜の買い物と消費行動に関するマーケティングデータ⑤

最近の記事