No.712 オトナのけんか

 今年からはじめた起業家論の授業で松永安左エ門のドラマを見て、学生からオトナのけんかってすごい、との感想がいくつか寄せられました。松永は官僚と戦いました。暴力によらないけんかは口げんかです。子供時代は、デブデブなど身体的特徴や貧富を持ち出したり、先生に言いつけるなど権威やルールをたてに強要したり、皆似たような経験があるとおもいます。オトナのけんか=説得は、口調の激しさではなく、自分の主張が正しいと考える合理的な筋道を示すことで戦われます。

 社会人になって忘れられない経験が二つあります。大学を出てまもなく銀行の調査部でレポートを書いていた頃、当時の上司から「君の書くものは、まったく意味がわからない。本を読んだことがあるのか。」とよく文句をいわれました。同僚は、主張やその根拠を褒めてくれていたのですが、上司はまったく認めてくれませんでした。反論しても無視され悔しくて眠れないほどでした。今考えると文章の運びが下手、主張に対して論理の筋道が省略され、つながりがわからない文章であることを叱られていたのだと思います。オトナのけんかになっていなかったのです。

 その後何年か論理を相手の理解に合わせて説明するよう心がけましたが、今度は大切に思っている親しい人を説得しようとして「理屈はそうかもしれないが、君は何とか自分の正当性だけを主張しているようで悲しい。」と言われました。オトナのけんか=説得では、論理の筋道だけではダメで、相手への共感を含んでいなければ、理解はしてくれても納得はしない、つまり協力は引き出せません。これもオトナのけんかとしては負けでしょう。

 社会人とは、具体的な社会行動とオトナのけんかを繰り返して成長していくものだと思います。いまだに、論理が飛ぶ事と共感に欠ける二つの弱点に悩まされてはいますが、若い頃よりは幾分ましになった結果、多くの人が力を貸してくれたのだと思います。同時に、もっと早く論理の筋道の示し方を訓練していればなあ、とも感じます。

 先週授業でも20歳で起業しネットでの人材仲介の先駆者である村上太一さんをとりあげ、若者がオトナとけんかする場合の注意点を学生に意識してもらいました。彼の最初のけんかは、無料で求人広告が可能という彼の提案に対し、大手求人会社が成功報酬型のビジネスモデルを取らないのにはワケがあるはず(若造が何言ってるの)という反論に答えることができず、求人広告を出す企業が集まらないことでした。後づけですが、その後の彼の活躍を踏まえて反論(説得)を考えてもらいました。授業の後、学生の質問を受けていて、はっと気がつきました。現在社会で起こっている多くの課題への人々の反応(デザイン盗用からテロまで)が子供のけんか化していること、特に僕たちが受け身で情報に接するテレビやネットではその傾向が強くなっているのではないかと。 (岩崎)

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