No.715 起業家にはなりたくない

 ノーベル賞の授賞式を見ながら、日本を元気で明るくするには、思いを持って挑む気概を持たないといけないなと改めて感じました。ただし、今まで高度成長のエスカレーターに乗ってリスクも取らずに年金をもらい、若者には挑戦しろ、とだけ励ます年寄りにはなりたくありません。挑戦の高揚感のみならず、リスクや恐怖感、またそれをどう克服するかもきちんと伝えたいのです。日本は失敗した社長には冷酷な社会です。単に挑戦を勧めるだけでは、若者を戦場に駆り立てる政治宣伝と同じです。そこで「起業家論」の授業では多くの起業家の生涯を事例として紹介し、同時にビジネスを新規にはじめた人の多くが理想とはほど遠く、実態は倒産率の高い業種を選んでいたり、現実逃避であったり、持続できるかの十分な検討もしていないことも説明します。

 授業を受けて起業したくなったかを質問すると、それでも70名の学生の三分の一が起業してみたいと答えてくれました。人々を幸せにする挑戦やビジネスの達成感を自分も体験してみたいとの思いや、アイデアを磨けば金儲けはできそうという率直な思いからの選択です。厳しいリスクを知った上で結論を出した学生を誇らしく思いました。是非そうした思いを実現できるよう後半の授業ではビジネスプランの磨き方を伝えようと思っています。

 一方、起業はしたくないと書いた学生も頼もしいものでした。多くは興味があるとしながらも、冷静に自分の資質を見つめながら、自分には恐怖に耐える力が欠けている、イノベーションの機会を見出す能力や発想が足りない、資本市場を使ったサギに近い起業はしたくない、事例を聞いても心に響くような自分の中でのイノベーションがまだ起こってこない、等自分を分析してくれました。よく授業を聞いてくれたからこその「起業家になりたくない」であることが、何ともうれしく感じます。

起業家にならなくても、起業家のリスクと恐怖に耐えずにやりがいのあるイノベーションの機会を追う方法があります。しかも身近なところにあります。地元のしっかりした経営者のもとに就職することです。授業で紹介した経営共創基盤の冨山和彦氏によれば、地方での第三次産業は、サービスの消費者が移動できずサービス提供者を選べないことから、工夫次第で大企業と十分戦えます。

 すでに地方での優れた実績を持つ中堅中小企業の経営者は、何らかの形で効率的にサービス提供が可能な地方での密度の経済性を見つけていますから簡単にはつぶれません。あとは市場の変化に応じた新鮮な工夫と、他の地方での良い経営を真似ていけばよいのです。そのような経営者にとって、若い挑戦意欲のある人材は喉から手が出るほど欲しいのです。挑戦意欲のある若い人にとっても、リスクとお金は経営者が負担してくれます。新しく事業を立ち上げることだけが起業ではありません。「起業家にはなりたくない」としっかり考えた若者が、できる経営者のもとで地元を救うのです。 (岩崎)

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