No.730 サービスは死なない

 先日身内の不幸があり多くの親族を自宅に迎えることになりました。地方の大きな家や昔の日本の家族であれば、食器や座布団、食事の準備など親戚や近隣の協力を得て滞りなくすませられるのでしょうが、今の核家族化した僕たちには大変な負担です。その時大いに役立ったのがネット購入でした。翌日に配送してくれるので、食材、飲み物、紙皿、赤ちゃんの簡易ベッドからスリッパまで買い回ることなく自宅にいながらそろえることができました。この便利さを経験すると、今後近くの専門店やデパートに買い物に行くことはなくなるのでしょうか?

 不幸の直前、不思議な二つの体験をしました。娘が欲しがっていた万年筆を故人が思い出として贈りたいというので、銀座の間口の狭い文房具店を訪ねると、通路にもお客さんが一杯です。数名いる店員さんの一人に万年筆を選びたいと告げると、「すみません。リストに名前を書いてお待ち下さい。順番にお呼びします。」と言われました。店内には数千円の万年筆から100万円の漆塗り螺鈿の工芸品のようなものまで何百本と現物と説明が展示され、それを眺めているうちに呼ばれました。商品知識が豊富でこちらの要望をよく理解できる店員さんに買う予定だった万年筆と眺めているうちに気になった知らないメーカーの製品の書き味を試させてもらい、結果そのメーカーのオーダーメイドの商品を発注しました。娘共々大変満足しているのは、商品もそうですが、買い手に共感した店員さんの応接で完成時に再訪するのが楽しみです。どこかで経験した感覚だなと思い出したのは、今から40年前は背広を作るときには百貨店や街のテーラーで注文していたことです。生地選びから、採寸、デザインの選択までベテラン職人のアドバイスを受けてワクワクしながら注文し、できあがる日を楽しみにしていました。ZOZOで買うスーツとは値段だけでなく体験も大違いでした。

 その直後、初孫にお宮参りの祝い着を贈りたいというので、故人の体調が良いときに和服の小物を買っていたデパートを訪ねました。数年前までは広い和服売り場だったものが数坪の狭いスペースに変わっており、ベテラン店員さんはいなくなり商品点数も限られています。幸い気に入った柄を見つけることができましたが、店員さんの応接は心許ないものでした。聞くと年に数回お得意様向けに京都から多くの商品を取り寄せて展示会を開催しており、その時にはベテランが応接するとのことでした。

 二つの体験から透けて見えるのは、ベテランがいるから商品を買うのではなく、ベテランとのコミュニケーションが継続するから商品を購入する満足感が高まる、長期互譲の関係です。ネットの利便性に和服売り場は合理化してもかないません。逆に買った後の顧客の体験に寄りそうコミュニケーションを付加できれば、ネットは対面サービスにかないません。なぜなら、ネットのような合理的販売は売るまでに興味があり、その後は次の商品を売ることにしか興味がないのですが、買い手は買った後の満足感こそ手に入れたいと思っているからです。 (岩崎)

 

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