No.736 凡才はメモをとる

授業で、共通の目的、貢献意欲、コミュニケーションが公式組織の成立条件と伝えると、コミュニケーションが上手法の質問を毎年受けます。コミュニケーションが苦手な僕には難しい質問ですが、格好の実例、山里亮太さんをみつけました。女優の蒼井優さんとの結婚会見で、「魔性の女と言われる蒼井さんの浮気が(不細工な山里さんとしては)心配ではありませんか。」という、不愉快な質問への返答が秀逸です。とっさでもあり、僕だったら「(結婚相手に)失礼だろう!」と切れるか、「エヘヘ、高望みはしません。」と卑屈になるか、程度のコミュニケーションしかできないと思います。

ところが彼は、「いっさい心配していないです。みなさんの目の前にいる蒼井さんと違う蒼井さんを僕は見せていただいているので。本当に純粋で、楽しいときには笑って、おいしいもの食べてる時は本当にコロコロ笑って。それですごく泣くという。みんなが思い描くのとちょっと違うでしょ。「魔性」って単語を使ってるけど、僕はそんな人間じゃないということを一緒にいてずっと見てたんで。みなさんが思う「魔性」から発生する心配というのは、一切ございません。」と記者までも包み込むような声で返します。結論は最初に、その根拠をのべ、最後に非難が根拠なき憶測であることをきっぱり伝える。悪意の人も噂に流された人も、山里さんしか知らない事実とパートナーへの敬意に身をただすことになり、同時にパートナーも自分をわかってもらえたと感激するコミュニケーションです。

彼の「天才はあきらめた」には、一流の芸人になる努力を、自分の醜さや他人からの見下しを発憤材料にして続け、その努力を自分で褒めることで小さな自信を貯金し、落ち込むときの再スタートを素早く切るための元手としたことが綴られています。本当の彼は人見知りだそうです。しかし、こう言うとこう思われるのではないか、という人見知りの不安感に、ならどう言ったら喜ばれるだろうという問いを加えることで、芸人にとっての短所を誰よりも相手のことを幸せにする才能、武器に変えられることに気づきました。そのために、メモをとり記録して考える努力を続けます。

長年売れなかった南海キャンディーズが、2004年のM1グランプリ(漫才のコンテスト)を目指した時は、やっと与えられた舞台で非難を浴びながらも同じネタを何十回と繰り返していきます。科学者の実験のようにボケの候補を20種類試し、突っ込むまでの時間を徐々に変え、それを記録したノートは芸歴の中で100冊以上に及ぶそうです。実験し尽くしたネタで2位を受賞し人生が動き出しますが、その後も調子に乗った失敗や見下された悔しさを努力の燃料にして、話術を磨いていきます。

山里さんがとっさのコミュ力で魅せたのは、人見知りという短所を記録することで相手のことを誰よりも先に考えることが出来る才能(タモリ談)に育て上げた努力のたまものです。同じく会計という記録でビジネスのコミュ力を高めた商人達が14世紀のイタリアにいました。が、それはまた別の話。(岩崎)

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