No.739 マンチェスターとリバプール

 タイトルを見てサッカーの話だなと予想した人も、僕の年から大昔のもの悲しいヒット曲の話題と思った人も今回ははずれです。前回ふれた南海キャンディーズの山里さんと同じように14世紀イタリアで取引のコミュニケーションを金銭的記録である複式簿記で記帳することで成功した商人達の後継者がどうなったかの話です。

 商売で一番大切なことは儲かっているかどうかを知っていること。売れていても売れば売るほど赤字になることは、サラリーマン経験豊富でもよくあることです。親しい人にツケで売れたと喜んでいると踏み倒されたり、ドル建てで輸出したら円高になったりするかも知れません。そのうち誰にどのくらい貸しがあるのかも分からなくなります。そこで、イタリアの商人は貸し借りやお金の出入りをお金とモノが反対に流れることを利用して、天秤のように両側から記録(=複式簿記)することで、今いくら儲かっているかを正確に計算できるようにしたのです。仲間ともめずに利益をいつでも正確に分配でき、金を出し合って船を仕立てて貴重品を海外から運ぶことで大儲けできる可能性が広がりました。それどころか、他通貨の両替決済でリスクを取らずに財をなすことも可能になりました。

 しかし産業革命が起こると、利益がでるまで長期間かつ巨大な資金が必要な鉄道のようなビジネスでは、投資のお金が先に出ていくため単純な複式簿記だけでは最初の年に大赤字になってしまいます。利益が出ていれば株を買ってくれる人もいますが、赤字では資金を集めることができません。19世紀この問題を解決した新機軸が減価償却で、毎年費用として少しずつ見えないお金の流れを想定し計上する手法でした。これでより大きな利益に挑戦できるようになりました。大儲けできそうだといつの世でも多くの人が投資します。しかし同時に見えないお金でインチキをすれば、赤字でも黒字に見せ人々を騙してもなかなか気づかれません。それに気づく真面目な人ほど手をだしません。

 19世紀のイギリスでも事情は同じで、宗教的理由もあって勤勉に産業革命の工場で成功したマンチェスターの経営者達は自分の工場を少しずつ大きくすることに資金を使ったようです。一方、港町で奴隷貿易など挑戦的だったリバプールの商人は鉄道に投資します。鉄道には地域を結びつけビジネスを活発にするインフラとしての潜在力がありました。日本でも地域活性化に賭けて小鉄道が多く生まれ、成功路線が失敗路線を安く買い繋ぐことで鉄道は世界中で成功を収めます。減価償却という会計制度が挑戦者の勝利を生みました。

 以上は、田中靖浩『会計の世界史』(写真は前回)の一部ですが、今当時のマンチェスターとリバプールに似たことが日本と外国の間で起きています。19世紀の鉄道に対し21世紀は通信技術と情報技術をインフラとするビジネスですが、日本の物づくり企業は地道に真面目に自分たちの産業を少しずつ改善し大きくすることに資金を使いました。その間に挑戦的な世界中の若者がネットビジネスに挑戦しエンジェルと呼ばれる挑戦的な投資家が投資しました。では彼らが可能性に賭けられた会計制度の新機軸は何だったのか。そしてこの流れに乗り遅れた人に挽回のチャンスはあるのか。是非会計の歴史の本を読んでみてください。ヒントがたくさん落ちています。日の本に新しきことなし。(岩崎)

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