No.758 新しい目

 「社会貢献Ⅰボランティア論」の授業でリオのパラリンピックについて質問したところ1年生のほとんどが見ていませんでした。障がい者の姿に感動しているのは、どこか上から目線、そう感じてテレビドラマ「星の金貨」や民放の二十何時間テレビが嫌いな人もいると思います。障がいを持つコメディアンのステラ・ヤングさんは、障がい者は常に感動的な話をするよう望まれている。あんな人でも一生懸命頑張っているのだからと、健常者を元気づけるために「感動ものポルノ」として障がい者は消費されている。自分たちは普通に生活しているだけ、障がい者が普通に生活できる社会を作って欲しい、新しい先生が車いすに乗っていても驚かないで欲しい、と主張しています。だからといって健常者が無関心となれば、いつまでも共に普通に生活できる社会は生まれません。

 ヤングさんのまっとうな主張は、簡単なようで大変難しい問題です。見慣れないものを受け入れられる新しい目を僕たちが持つようになるには大変な時間がかかるからです。新しい発見を生み出す有機的組織の実例として、ファッションデザイナー川久保玲さんの作品と組織運営を15年前から授業で取りあげています。彼女が1983年に発表した真っ黒な服や、穴の空いた服は今やファッションとして当たり前ですが、当時はボロ着や葬式の黒と酷評さたと話すと学生は驚きます。1985年に発表した枕カバーをひっくり返した形を取り入れた裾がふくらんだ服は、10年前の学生には意味不明と評価されていましたが、その後バルーンスカートが流行したため、今では学生にとっても見慣れた服になっています。好奇心旺盛な若い学生でも新しい目を持つには10年単位の時間がかかるのです。161010川久保

 彼女の成果を説明する上で困っていたのが、「ボディーミーツドレス ドレスミーツボディ」と呼ばれる1996年に発表した作品でした。写真のようにドレスから異形のふくらみがはみ出して、体が歪められたような生理的嫌悪も感じうる服です。ただこの服は動くと生き生きとした曲線を描きます。新しい目で見なければわからない美しさでしたが、何年たっても世の中でこの傾向が取りあげられる気配はありません。パタンナーと命を削って話し合うことによって川久保さんは発見を続けており、今奇妙でも将来の美となると授業で言い続けて15年、映画やアートの世界だけかなと僕自身あきらめかけていたのです。

 しかし、川久保さんの予言は当たっていました。今年のパラリンピックを見て多くの人が感じたのは「感動ポルノ」ではなく、競技者の体が、躍動感が、大変美しい事ではなかったでしょうか。次回開催国東京都の予告パフォーマンスも健常者アスリート以上に彼らが魅力的であることを巧みに表現していました。僕たちはようやく新しい目を持ち始めたのかも知れません。唯一残念だったのが、国営放送アナウンサーの閉会式直後のコメント「失われたものがあっても、残った能力をここまで活かす姿に感動しました」、おいおい。 (岩崎)

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