No.763 サイエンスかアートか

 この年末は突然、神隠しのように別世界へ連れて行かれる経験を三度味わいました。高校時代の部活動から55年ぶりに真剣に演劇と向き合う機会をくれたのは、容姿だけでなくずば抜けた運動能力と台詞回しで輝きを放つ広瀬すずさんでした。天才演出家野田秀樹と組んだ「Q:A night at the kabuki」は、いくつか出入り口のついた大きな壁を背景に、舞台装置は複数の簡易ベッドだけなのです。その中での達者な役者達の身体と所作、サーカスのようなアンサンブル、台詞回しとQueenの音楽に誘われ、ベッドが波打ち際に、舟に、オープンカーに、ディスコに、バルコニーに、お墓に、ヘリに、塹壕に、戦車に、ギロチンに見えてきます。3時間はあっという間で最後には舞台の見立てと役者の実在感に裏打ちされた生身の感動と、何日も続く余韻という考える原動力をプレゼントされました。

 次の衝撃は、マンガ「風の谷のナウシカ」を原作とした新作歌舞伎です。アニメと違い7巻にもおよぶファンタジー長編叙事詩で、現代の文明社会に生きる意味を問い直す作品です。幕があがり歌舞伎でよくある口上を活かして筋を説明するところから、荒唐無稽なファンタジーを歴史物になぞらえてすっと「そういう世界だ」と芝居の中に没入できます。実写化は映画「進撃の巨人」のように失敗するだろうなと思っていた作品ですが、歌舞伎の伝統で磨かれた様々な仕掛け(けれん)と所作でSFX以上の実在感のある舞台になっていてびっくりです。殺陣や立ち回り、馬上の戦闘や飛行シーンも桟敷の中で見ると圧倒的な臨場感でせまってきます。とりわけ尾上菊之助が演じる少女ナウシカや、中村七之助の王女クシャナの叙情と凛としたたたずまいが、いつしか中年のおじさんが演じているとは思えなくなる歌舞伎魔法のすさまじさ。伝統芸能の底力を見せつけられました。

 これら二つの演劇は論理的にこう解釈できるというサイエンスではなく、いずれも人々の心の中に語りかけるアートです。前者は役者が様々に試行錯誤し感動の極限を探すワークショップを通じて、戯曲の想像力を広げ磨いたと理解できますし、後者は何代にも渡る観客の目に磨かれた所作を通じた感情表現が、悲喜劇の落差を極限まで引き出し進化していることを説明はできます。が、理屈で同様の共感、感情を生み出すことは不可能です。  最後の体験は高校教員、地域企業、マーケティングを学ぶ学生向けに15回続いているマーケ研の「ヒットメーカーに学ぶ! 商品開発塾」で、ある講師が示されたアートとしてのマーケティングでした。大学で学ぶマーケティングのコアは、P&Gや花王に代表されるような顧客ニーズの徹底した分析と商品技術力、それを客に伝える緻密で分析的な広告戦略というサイエンスが中心です。昭和初期には甘口ワインのセミヌードポスター等複数社でヒットを連発した片岡敏郎のような魔術師が活躍できました。しかし科学中心となった現在でも分析しきれないサイバーな世界の中に、ハッピーでクリエイティブでユニークな実例が魔力を発揮しています。教員も学生も心を鷲づかみにされ異世界に飛び、マーケティングの深さ面白さを実感しました。徹底して分析して考え実践したのちに生まれる洞察(インサイト)に、今でも魔法は実在します。(岩崎)

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