No.766 遥か彼方の銀河系で

 大学時代に公開されたスターウォーズが40年以上かけて完結しました。早世した友人との思い入れのある映画ですが、今の大学生はあまり見ないようです。現代のアニメやファンタジーゲームのように40年前の若者は漫画やSFにはまっていました。SFの入り口はスターウォーズのようなスペースオペラと呼ばれる宇宙冒険活劇で、中学生のころは銀河パトロール隊が宇宙海賊と戦うシリーズものを愛読していました。勧善懲悪、人情ものの物語に飽き足らなくなると、背伸びして複雑なSFに手を伸ばしました。「ワンピース」から「進撃の巨人」にはまるような感じです。

 印象に残る一冊はアシモフの「銀河帝国の興亡(ファウンデーション)」です。文明が極度に発達した未来、永遠に続くと思われた銀河帝国の衰退を集団心理から予測した天才科学者セルダンが、衰退による混迷を短く食い止めるため百科事典を編纂する星を作り、そこに住み着いた子孫が予想された様々な危機を乗り越えていく話です。アシモフは科学知識とローマの歴史を下敷きにこの本を書きました。1942年から書き出したのに、すでに原子力発電の事故とその結果として科学技術の衰退や反科学主義の発生、ポピュリズムや民族主義の台頭を描いています。同時に「暴力は無能力者の最後の避難所」として衰退や紛争へ様々な知恵を絞る人々を描いています。読んだ当時は無限の未来へ人類は進歩すると楽観的な気分が社会に広がっていましたので違和感もありましたが、未来を予測できそうな経済学を学びたいと思うきっかけとなりました。今の時代改めて読み返すと、確かに文明は長期にわたって衰退するものだとの実感とともに、アシモフに現代日本の様々な環境を予想されたような気分になり、長年環境問題に取り組まれている先生に思わず1巻をお渡ししました。

 もう一冊は地球からの流刑囚の子孫が住む植民地とされた月の住民の独立運動を描いた「月は無慈悲な夜の女王」です。複数の超大国が力の論理で強要する植民地政策に、プログラミングという専門性を身につけた一匹狼の主人公がAIと女性活動家と老無政府主義者の力を借りて革命の組織づくりを進め、自分たちの資源と尊厳を取り戻す過程を描いています。AIに情報網をゆだねると何が起こるか、AIと唯一コミュニケーションできる存在となると何かできるかの思考実験として現代でも大変参考になりますが、さらに大きな問題を考えるヒントになっています。幸せのため自由に生きたい個人が、人々の集団から受ける様々な束縛にどう現実的に対抗きるのかという問題です。作者のハインラインはマッチョで女性を尊重し、奥さんの影響でリバタリアンと呼ばれる過激な自由主義者でした。学生時代もし真剣に読んでいたら、その後の社会生活での軋轢を少しは抑えられたかもしれません。いずれも、世界の中での日本の現在や今後を考える貴重なヒントをくれます。

 想像もできない遥か彼方の銀河系にも似たその後の人生で僕は時々SFを思い出し、若い時には読み落としていた考える道筋の価値に気づかされました。僕たちが若い時に夢中になる物語や形式は時代によって異なりますが、その中でも感情だけに働きかけず余韻とともに何か考えることを求める作品は貴重です。若い時にできるだけ多くのコンテンツに触れてください。 (岩崎)

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