No.767 奇跡に立ち会う

若いときに是非経験してもらいたいこと、それは「奇跡に立ち会う」ということです。奇跡なんて起こらないと多くの人は思っていますが、人と人との繋がりが偉業をなしとげる、奇跡といってよい瞬間を目撃すると、声にならない感情の高まりを味わえ、世の中を見る目が大きく変わります。もちろん奇跡の主役、例えば大学での努力が報いられ現役で公認会計士として合格するような自分自身の経験が最高ですが、奇跡の瞬間に立ち会うだけでも人生が変わります。例えば、震災後の日本人を勇気づけた「なでしこジャパン」の女子サッカーワールドカップでの優勝は、テレビで見てもリアルタイムで見た人は体が震えたのですから、現地で観戦した人は天災に襲われても努力が報われると信じられる瞬間の目撃者として、生き方が変わったのではないでしょうか。

僕自身も学生時代イギリスの劇団が演じたシェークスピアの芝居を見て、体を使った表現の奥深さと言葉が分からなくても客席と一体になれる奇跡に目覚め、また早稲田大学の学生オーケストラが演奏したマーラーの交響曲を聴いて、クラシックって自分と同じ人間の心を表現しているのだ、多くの楽器の協力でその複雑なひだを生き物のようにすくい取っているのだと気がつき、鳥肌が立ちました。ただし、奇跡に立ち会う体験は、好きなスポーツや、音楽、パフォーマンスを鑑賞しても、何十回に一度しか出会えないのが普通です。だから奇跡的とも言えます。僕はアントラーズのファンですが、クラブワールドカップ決勝のチケットは買っていませんでした。信じて通い続けなければ、奇跡が起こっても幸運の女神はほほえんでくれないのです。

しかし今、この奇跡的な体験が確実に得られる映画が、しかも日本人が創ったアニメで上映されています。「この世界の片隅に」は、静かな表現で70年前の日常生活を淡々と描くことで、人間の社会がどのように一人ひとりを置き去りにして変化していくのかを描いた原作の映画化です。主役のんさんの自然な演技と、当時の時代、景色、生活を忠実に再現し、まるで風景画、静物画、時には抽象画のようにも思える大胆で高度なアニメーション表現、心象風景を奏でた音楽で、登場人物が実写以上の実在感を持って、見る人の目前に迫ってきます。主人公とその時代をもっと知りたくなります。それは遠い昔の日本に起こった過去ではなく、今シリアで、スーダンで起こっていることだとリアリティを持って伝えてくれます。決して怖い映画ではありませんし人を信じるすばらしさの映画でもあるのですが、見終わった後の言葉にできない感覚という奇跡を、色々な人の力が渾然と高いレベルで結びつくことで生み出していて、出会えて良かったと思える忘れられない映画です。 (岩崎)

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