No.773 優秀な経営者?

 TPPの離脱やメキシコ国境に壁を作る等トランプ大統領の派手な言動に注目が集まっています。一方、彼は優秀な経営者だから、派手な言動は有利に各国との交渉を進めるための手段で、株価が予想しているように実際は各国との政治経済関係を壊すつもりはないという人もいます。今回は経営学の基本的な理論から考えてみたいと思います。

 会社の収益性(儲け)を決める基本要因は、会社が属する業界の魅力度=競争が激しくないこと、で決まり、競争の激しさは、競争相手との敵対関係、新規参入業者、代替品、売り手の交渉力、買い手の交渉力、という5つ力(競争要因)で決まるというのが、ポーターの理論です。この枠組みは、色々な社会の問題を自分なりに考えるとき応用が利くので覚えておくと便利です。新大統領の場合、まず何を自分の商品(業界)としているかを考えてみましょう。就任演説でのアメリカ第一の連呼から米国の国益とも思えますが、これでは抽象的すぎて分析できません。投票してくれた人を失望させると4年後再任がないことから「アメリカの労働者」が彼の商品で、それに競争力をつけ配分を大きくするビジネスとも読み替えられます。従来の大統領は米国の労働者をより高いレベルに高める教育に大きく期待していましたが、ポーターの理論によれば、新規参入(移民の流入)や代替品の脅威(国外での生産)が一般的で競争が激化すると、教育(商品差別化)では一般の労働者の懐は豊かになりません。労働市場という業界構造を変える戦略が必要です。ポーターの理論は、努力しても成果が出づらいところでは、ビジネスしてはいけない。そこでビジネスするなら業界の構造を変えなさい、と言う意味です。

 具体的には競争要因の5つの力を変えることですが、誰でも思いつく労働者の業界構造を変える方法は、新規参入の制限と、代替品の禁止です。日本でも業界団体が地域への新規の出店を阻むことがよくあります。運動会の場所取りと同じです。ですから厳しい国境管理や輸入製品への制限は、ある意味短期的には合理的です。同時に、ビジネスの原材料を買う相手が自分より大きくて強ければコスト高になって利益は減り、売る相手が強ければやはり値切られます。ということは、TPPのように多数の国をまとめて相手にする交渉より、米国のような大国は1国1国と対峙した方が有利になります。これは昔からの常識で、三国志が好きな人は合従連衡や天下三分の計という言葉を聞いたことがあるでしょう。

 ただし、ポーターは「戦略を選ぶ場合、ともすると長い将来業界構造に何を起こすことになるかを考慮せずに決めかねない。競争的地位をどれだけ高めるかは予想するが、競争相手がどんな反撃をしてくるかの予想はしない。」「もし強力な競争相手が似たような戦略で反撃してくることによって、業界構造が混乱するという事態になると、全ての業者が傷ついてしまう。」とも書いています。マクドナルドや吉野屋が競争優位を狙ってしかけた値下げ競争は、業界全体に跳ね返りました。このようなビジネス戦略を立てる人を、ポーターは「二流の」「間抜けな」業者と呼んでいます。新大統領と似たような政策は、歴史に学ぶと大不況後のブロック化という形で第二次世界大戦への道を拓いています。彼が一流の経営者であることを祈っています。 (岩崎)

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