No.788 トリアージ

経営学入門の授業で組織構造の設計について理解してもらうため、毎年福知山脱線事故でのトリアージのビデオを見て考えてもらっています。トリアージとは、大規模災害時に少数の医師、看護師で出来るだけ多くを救う目的のため助けられる命から手当てすることです。一人30秒程度の短時間の診断で被災者を最初に緑、黄、赤、黒の4つのグループに分け、赤の被災者から病院に搬送します。延命はできたとしても救命の可能性のほとんどない患者には黒のタッグがつけられます。

一刻を争う現場で多くの人を救うためには組織として効率を保たなくてはならず、分業を決め、権限は誰が持つかを明確にし、消防、医師団等の部門を定め、それぞれの伝達と協議のやり方を決め、そしてなにより時間が限られていることから、こういう場合はこう対応するといったルール化を、参加する人全員が共有する必要があります。そのためには頭で理解するだけではなく、平素から部門内、あるいは部門間を横断した訓練が必要です。福知山の事故では、善意の市民がトリアージを知らず、トリアージ前のけが人を病院に運んだ結果、病院で再度トリアージの体制が必要になりました。

毎年多くの学生から、本当に必要なのか、黒のタッグをつけられた遺族は反発しないのか、法的根拠は等、多くの質問が寄せられます。それぞれもっともであり、共通の目的が明確でそれ同意できないと、トリアージ自体非難を受けることになるでしょう。理解できても、自分の親族が、となればまた話は別に感じます。

その点も含めて、自分がトリアージをする立場ならトリアージの責任に耐えられないという意見も寄せられ、学生の純朴さに打たれます。しかし、家族であってもより多くの家族を救うためにつらい決断を強いられる時があることを平時に冷静に考える必要があります。海外の貧しい国で全力を尽くしているあるドクターは、ガンの検査や診断はしない、もし知れば、家族がその患者のために全てを捧げて結果路頭に迷うからと語ってくれました。日本の老人介護でも多くの家族が同じ問題に直面するはずです。先進国では、知識や情報に耐えられる冷静な判断力と暖かいマインドを同時に維持する訓練が必要です。

このような簡単でない意志決定を決断と呼びますが、経営者の仕事はこの決断を行うこととも言えます。トリアージの医師、看護師のように気が狂わんばかりのその重みに耐えるからこそ高い報酬も正当化されるのですが、最近の日本の大企業経営者の投資決断のいくつかには、本当により多くの従業員や株主を導こうとしたのか、その重みに耐えた決断だったのか疑問を感じます。トリアージを知ることは、便利な先進国の多くの人にかしずかれたような社会生活を当たり前と思わぬよう自覚を促してくれます。 (岩崎)

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