No.815 カーペディエム

経営学を学んでいると、人々は共通の目的にむけ、高い生産性や効率のためそれぞれ力を合わせ、計画しコミュニケーションをとりながら問題があれば改善策を考えコントロールしていくと習います。ですから学生は、時間を守るルールを最初に身につけ社会に出よう、と教えてきました。でも、これって本当に正しいのでしょうか? 感受性も論理力も極めて優れているのに、約束の時間だけは守れないとういう学生が時々います。

社会人になると朝決められた時間に出勤し、スケジュールに沿って生活しなくてはいけないことに不自由さを感じる人も多いでしょう。しかし、東京に比べ、地方に行くほど、非公式になるほど時間厳守の重要性は薄れ、南の国に行くと約束の時間通りに訪ねることが失礼に当たる場合もあるようです。それでも社会が回るなら、のんびり暮らしても良さそうです。時間の考え方は地方や時代によって違います。べき論や生産性だけで時間厳守を学生に説得するのは、時間を守らずともうまく世の中が回る実例が他にあるかぎり難しそうです。むしろ、時間を守らないと時間の質が悪化する、という考え方はどうでしょう。

先日90の父を失いました。2ヶ月前にようやく体力を取り戻し、食事も散歩も楽しんでいたのに、突然あっさり逝ってしまいました。喪失感はまだわきませんが、紅葉や桜を一緒にみたかった。食べたいと言っていたものを食べさせ、会いたいと言っていた人に会わせてあげれば良かった。小康を得た状況がしばらくは続くと思いこんでいたのですが、人生の時間は有限、いつ果てるかは誰にもわからないことを痛感しました。西洋には「カーペディエム=その日の花を摘め」ということわざがあります。日本では一期一会、共にいる人といかに濃密な時間を過ごすかが、洋の東西、時代を問わず大切なのでしょう。

その時間の質が人の一生を左右します。バードウォッチングを始めた頃出会った二人連れの会話を思い出します。金華山で鷹の渡りを双眼鏡で観察し、あれはクマタカ、これはハチクマ、そっちはノスリと豆粒ほどの影から正確に種類を言い当てて自慢げな小学生の弟子に、師匠のおじさんが「見て当てることより、観る質を高めろよ。今そこにいる鷹にはもう出会えないのだから。」と助言していました。

人と出会い過ごす時間の質、それは自分にとっても相手にとっても、人生を左右します。90歳まで生きて78万8千時間。時間では実感がわかなければ1時間1円と考えるとどんな人も高々79万円ほどの所持金(所持時間)で一生を終えるのです。うち、26万円は税金のような睡眠時間で、のこり53万円と考えると1円とて無題にできません。父と過ごしたこの半年5千時間はかけがえのない思い出となると同時に、言い古されていても実感できなかった、価値ある時間の意義を教えられました。 (岩崎)

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