No.826 多様性へのたくらみ

 

 多様性=ダイバーシティを認める社会の流れは、日本では「男女共同参画社会」とお堅い漢字で取りあげられ、しかも既得権者の利益、労働力不足解消や少子化対策の話に矮小化されています。本来は女性や少数者の意見や文化を反映できるより自由で活気ある社会を目指すハズですが、学生の就活を見ても多様性を受け入れる環境が進んだとは思えません。ではどうやって社会を変えたらいいのか。意外なところにヒントがあります。

 アカデミー賞のシーズンですが、昨年賞を取り逃がした「ドリーム」には強く動かされました。人種差別が当たり前で今のようにパソコンも発達していなかった1960年代のアメリカで、有人宇宙飛行に欠かせない軌道計算やシミュレーションを行う黒人女性の計算労働者が、差別に負けず一歩ずつ社会進出を果たす実話に基づいた話です。差別と戦う話は普通重苦しく説教臭いのですが、この映画は明るく粘り強く仕事、社会、家庭の問題に挑戦していく女性達を描いています。何よりその活力の源が体力であることを痛感させられます。まず体を鍛えよう、でもこれは奥さんから言われ続けていたことです。親しい人の意見でもきちんと聞いていないな、と昨年は自然に考え直せました。

映画では価値観を動かす手法が進化し、偏見がないと思っている僕たちのかすかな偏見を自覚させてくれます。「ゴーストバスターズ」では、賢い女性達がイケメン、マッチョで脳天気な若い男を受付に雇い、お化けに襲われた彼を助け出します。大笑いしてふと女性と男性を入れかえて考えると、自分の偏見があぶり出され価値観がゆさぶられます。

 しかし、1000年も前に日本でもハリウッド並みの仕掛けが新しい価値観を定着させたことがあったのです。僕が学校で習った清少納言は、ちょっと嫌みなおばさんというイメージでした。その後バブルの時期に橋本治が、素直に新しい価値に「おかし」と感動する清少納言に現代のギャル並みの明るさを見出します。「桃尻語訳 枕草子」として現代語に訳しヒットしました。ではなぜ屈託のない明るい知性にあふれているのか、山本淳子「枕草子のたくらみ」が推理小説のようにワクワクさせながら明かしてくれます。

 平安時代の女児は男性貴族の出世の道具でしかなく、男性しか学べない漢文文化が社会を支配する時代でした。しかし一人の優れた天皇の妃(中宮定子)が和歌や漢文の素養を持った清少納言を含む女性達を集め、能力を伸ばし機知に富んだ新しい文化と女性の仕事像を切り開いていきます。貴族の政争に巻き込まれ定子は不遇となり亡くなる中、清少納言は自らの才能を開花させてくれた不遇の恩人を慰めるため、あえて明るくその恩人の功績と文化を伝えたのが枕草子だと言うのです。歴史の常であれば政敵に抹殺されていただろう書物が生き残ったのは、不公平な当時の社会に絶望し出家したがる若者に、この本と定子の生き方が希望を与えたからだそうです。まさにハリウッドを先取りしたたくらみ、それが1000年生き続けているというのは、いとおかし、です。 (岩崎)

関連記事

  1. No.767 奇跡に立ち会う

  2. No.746 「なじみの店・行きつけの店」になることのメリット

  3. No.729 店舗のリピート利用

  4. No.801 天空の茶畑

  5. No.780 道の駅の経営③

  6. No.759 伝え方が9割

  7. No.706 AI後の仕事①

  8. No.748 土日の行動パターン④

  9. No.700 仕事の未来

最近の記事