No.856 『建学の精神』の社会性

 

1年生は例年『建学の精神と社会生活』の授業で郷土史家の酒井寛先生から岐阜の治水の歴史について話を聞きます。聞いている教員にとっても先生の調査が毎年深まって行かれるのがわかり、学びの深め方を再認識する授業となっています。同時に、授業では触れられない先生の別の調査も、地域の誇りを取りもどす意味で本当に面白く、過去コラムでも紹介させてもらいました(「160415歴史と連なる」「150518努力と成果」)。

今年も講演後お話を聞くと、岐阜に半永久的な治水工事を施したデ・レーケの隠れた業績である地元の堰堤を発見され、改めて資料にまとめられたようです。それ以外にも面白い話がでました。治水に関して戦前のある政治家の名前を冠した施設があります。置かれた石碑を読むと彼が破壊されていたその施設を修復し、その功績から地域の人はその名で施設を呼んだと刻まれています。酒井先生の記憶では昔は別の名前で呼ばれていたそうです。そこで様々な文献、古地図や古老の話を調べ、施設がずっと機能していた傍証を見つけ補修への言及もないことから、そのような事績はなかったのだろうという結論に達したそうです。しかし、これは公表しないとおっしゃいます。その政治家は地域を愛し全国でも先駆的な多くの貢献を岐阜にもたらした政治家でもある。事実を調べ上げても政治家の一面だけを見るのでは、この話は一方的な誤解や政治利用を生みかねないというのです。

歴史を見ると、世の中のことは単純な黒白では決着がつかないことがわかります。西郷隆盛がドラマでとりあげられていますが、歴史好きでも明治維新までの尊皇派、佐幕派、攘夷派、開国派の関係をうまく説明できる人は少ないでしょう。単純にどれかの党派に属するのではなく、時期により微妙にその色を変えていき、最終的に文明開化、富国強兵となるのですから。現代でも同じで、北朝鮮に強圧的だった大統領が対話を持ち出し、貿易摩擦を仕掛ける一方で二国間の友好関係を強調します。本当は何が起こっているのかを自分で判断するには公式発表だけでなく、情報の公開や学者やマスコミによる多様な調査が必要でしょう。ただし一つの調査の分析結果だけ見ては、良い判断はできないでしょう。

酒井先生が知性の限りと行動力を尽くして調べたことを発表しないのは、もったいなくも思えます。しかし社会的動物である人間は、一面的な事実や思いこみから自分や他者とのネガティブなコミュニケーションも連鎖させます。昨年の映画「名探偵コナン から紅の恋歌」では愛する人を守りたい一心で、事実の一面を見た勘違いからひき起こされる悲劇を描いていました。朝日大学の建学の精神、「国際未来社会を切り開く社会性と創造性、そして、人類普遍の人間的知性に富む人間を育成する。」は、一面の事実を知る知性だけでなく多面的な事実と社会的影響を自分で判断して創造的な対応を生み出す精神です。まさに酒井先生の生き方から、それを学べます。 (岩崎)

 

 

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