テーマ:コラム

 社会人になりたくない理由の一つに仕事に追われるから、というのがあります。これはある意味で正しく、ある意味で間違っています。会社に入ると、山ほどの仕事に埋もれそうになるのは事実です。最初は自分が仕事に慣れていないせいかとも思い努力するのですが、どんどん仕事が溜まっていきます。バックログ、恒常的な残業の始まりです。

 銀行員は貸出審査のための既取引先については毎年状況をまとめ貸出可否の判断をする稟議書を書くのが仕事ですが、今から35年前の融資課では9時10時まで仕事をするのが当たり前という状況でした。誰もがその状況に疑問を持ちませんでしたが、ある日融資の経験のない中堅社員が配属されました。彼は常識に反し、新人だった僕に3ヶ月先の稟議まで書くよう指示し自分もそうしはじめました。一人が何十社も取引先を持ち、1社で1年間に必要な稟議は商業手形割引、増加運転資金、決算賞与資金、設備資金等大体5本以上あります。1ヶ月に10本以上の稟議を書いている状況では、とても無理だと思えました。

 ところが、必死で書いてみると、色々なことが見えてきました。稟議書にはパターンがあること。決算書をもらうのが遅くその督促で稟議が遅れ、確認事項を確認に行きまた稟議が遅れること。ぎりぎりの稟議には、課長や本部の審査役とのやりとりでさらに追加的な仕事が発生していること等です。ハラを決めて、1ヶ月積極的に残業して翌々月の稟議まで提出したとき、審査役から「こんなに先の稟議は読めない」と言われ、稟議は1ヶ月前に出すことが定着しました。するとどうでしょう、日中の時間が空きだしたのです。暇なので、自分が面白いと思った取引先に行き話を聞きます。すると、稟議にも自然と奥行きがでて、審査役とのキャッチボールが減り、ますます時間が余ります。そこで、当時の融資課としては珍しく渉外担当者と新規先を回るようになりました。始めて仕事が面白いと感じました。

 最近、残業時間月60時間を上限とする労働基準法改正案の話をニュースで見聞きします。以前から法定内時間外の上限はあり、それ以上は割増賃金を払う必要があるため今でもその時間以上に残業を記録できない会社はあるでしょう。さらに、つきあい残業が一般的な社会ならこの制度は日本を滅ぼす可能性があります。決められた時間の中で自主的に工夫するからこそ仕事の面白さは生まれます。何ができるか示してくれる上司の下でなら若い日本人の創造性はもっと発揮されるでしょう。最大の問題は、経営者が自分の組織効率の指標を見失うことです。全社の残業時間の多寡は、社員満足と長期的な経営効率の最も重要な指標です。

 ある人が書いています。もし、ブレーキのついていない自動車にのるなら、あなたの運転は慎重になるだろう。それがもし知らずにブレーキの故障している車に乗ったら大事故になる。これが新幹線だったら、そして大きな組織だったらと思うと、大惨事が起きないことを祈るばかりです。 (岩崎)

PAGETOP