テーマ:コラム

 

 夏の楽しみは冒険です。子どもの頃ガキ大将に連れられて暑い山道を越え、破れた金網をくぐると突然ライオンと鉢合わせしました。裏山の動物園で鉄格子越しだったのですが、忘れられない思い出です。今年は「命に関わる危険な暑さ」。岐阜も40度近い猛暑が続いていますので、日陰でできる冒険を紹介しましょう。

 人づきあいが苦手で暑さもこりごりという人には、角幡唯介さんの『極夜行』を読んで冷気を感じてみてはいかがでしょう。世界最北の村で、白夜の真逆である極夜=厳冬の太陽がまったく昇らなくなる時期に、真の闇の中で3ヶ月間、1頭の犬だけを友に単独で歩き回る冒険の記録です。マイナス20度から30度を超える寒さの中、次から次に襲ってくるブリザード、セイウチ、シロクマ、飢え、オオカミ。これが小説や映画だったら上出来ですが、全部実話でしかも絶望的な想定外、でもユーモアを忘れず記録していきます。世界中がグーグルマップで見られ未開の地がなくなってしまった社会で感じる閉塞感をどうやって飛び出すのか、飛び出した後何が体感できるのか。地球はまだ広く、僕たちは忘れたことがたくさんあります。読むの苦手な人は映像でも楽しめますが、読んだ方が想像力を刺激されより涼しくなると思います。

 暑さもそこそこOK、人づきあいも好きだよと言う人には、高野秀行さんの「謎の独立国家ソマリランド」をおすすめします。ソマリアというと海賊のイメージですが実際にいった人はほとんどいません。その中で20年近く平和を保つ地域ソマリランド、地上の楽園ラピュタか北斗の拳か。冒険活劇より、自分探しの小説より、新学説の論文より面白く、考えさせられます。最も戦闘的な地域で和平が達成された理由は何か。そこに隠された現代文明をあざ笑う大きな皮肉。薄氷を踏みながらも平和の維持の努力を怠らない人々。この枠組みを突撃取材で解きほぐす筆者の力量に脱帽すると同時に、日本人、自分たちにあった仕組みをもっと考えようよ、と勇気づけられる本です。とは言っても好奇心こそ冒険の命、全体的に筆者の人好きと楽観、ゆるーい感覚が伝わってきて、ズンズン読めてユルユル考えさせられます。

 角幡さんは「探検というのは人間社会のシステムの外側に出る活動である」として計画通りに行かないのが当たり前で、僕たちが信じる安全便利を横に置いて、自力で命を紡ぐプロセスが冒険だといっています。誰かが準備してくれた空調の効いた部屋から抜け出し、自分たちがどのような生活をしているのか客観視することは、僕たちにとっても有益な経験になりそうです。本を読んで涼しくなったら、寝袋もって独りで山に行きましょう。大接近した火星が神秘的に語りかけてくるだけでなく、想定外の動物の気配も聞こえてきます。人好きなら、畦地先生のゼミ生のように、知らない人にご飯をご馳走になる冒険も、同時におすすめします。 (岩崎)

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