テーマ:コラム

 

 SNSが発達した時代は、ピコ太郎のように一夜にして人気者になることが起こります。「カメラを止めるな」という自主製作映画が話題です。映画学校のアークショップとしてわずか300万円でミニシアター2館1000人見てくれればよいと上映を始めた映画が、先々週で観客動員86万人興行収入12億円を突破しました。文化祭の出し物のようなしょぼいゾンビ映画を見たい人はほとんどおらず、見せられたら席を立ちたくなるでしょう。無理矢理娘に連れていかれた僕もそうでした。しかし途中であれ変だな、おや別の話かと座り直してじっくり見だします。多分こういう話かと想像し、でもどうやるんだと疑っていると、案の定想定外が。それを、どうするんだ。あ、こういう事だったのか(笑)、じゃあれはこうかな? そうだよねえ(笑)え、でもこれは無理だろ。あのしょぼさはこれかあ(爆笑)、あこりゃダメだ、じゃあどうするんだよ、エー(笑)絶対無理、あああ(大爆笑)、がんばれー、あーやったああ(感激、拍手)。映画館をでると、良かったなあ、僕もやりたいなあ(映画が感染)。あー誰かと共有してえ、という気分になります。感染してもネタバレすると初見の人の感動が半減するので、とにかく観て、としか伝えられません。観た人は高い確率で感染します。

 メディアはこのヒットはSNSが引き起こしたと報じていますが、本当でしょうか。まず映画を見ないと議論しづらいのですが、この映画は大きな落差によって、人と人とがお互いを理解しようとする力(=対話)を引き出したのではないかとにらんでいます。映画の中でも行動と対話で新しい何かがちょっと生まれ、そこから今まで関係ないと見守っていた人までもその渦に巻き込まれていき、さらに想像もしていなかった何かを生み出していきます。その流れが観客にも伝わり、たまたまSNSに乗って以前の同種のものよりずっと加速されたのでしょう。「スターウォーズ」のフォースとは、ある意味こういう力かも知れません。大変業績を上げている会社や組織では、誰かが種を蒔いて生まれたフォースによる化学反応が社内のいたるところに広がり、構成員がハッピーに新しい変革を引き起こし続けることがあります。この映画の成功はマーケティングという狭い範囲にとどまらず、組織全体の対話の実例として考える価値がありそうです。

 ただし、フォースと同じようにこの力には集団浅慮という暗黒面があります。前回触れた「よかれ」を実行する快楽が、そのグループの中でのより過激な「よかれ」に変化する可能性です。通常はそうなってもそのグループ内での「常識」=外部社会の非常識で社会全体には拡散せず歯止めが効きました。しかし多くの人がなんらかの不満な状況にあると、そのような過激な「よかれ」はナチスや差別のように拡散することがあります。その時SNSがあると感染が一層進む可能性は見過ごせません。

では、どうするか。対応は二つです。一人ひとりが自分で考える力とメディアリテラシーとを高め多様な価値感の真贋を見分けるプロとなり免疫力を高めるか、どこかの大国のように人々のコミュニケーションをつぶさに監視し介入するかです。どちらの社会を選ぶかは、僕たち次第です。 (岩崎)

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