テーマ:コラム

 

 1年生の経営学入門のテキスト伊丹、加護野『ゼミナール経営学入門第3版』は授業では数章しか解説しませんでしたが、毎回の宿題をこなした人は、現実の問題を事例とすることで残りの章を読み自分で考える力がついているはずです。授業でちょっとふれた吉本興業問題を使って、考えてみましょう。

 経緯はまず芸人さんが反社会勢力からお金を貰っていたことを虚偽申告した事実を会社に伝え謝罪を希望したが、会社側が黙殺したとして個人的に謝罪会見を開きました。この結果、反社会勢力とのつきあいや脱税という問題がすり替わって吉本興業という組織自体のコーポレートガバナンスが問われる事態に発展し、社長が事実関係と社員一般との関係の説明会見を開きました。この間、所属する別の大物芸人が芸人を守るよう会社が変わらなければ辞めると発表しました。これは美味しい教材です。

 事の是非はともかく、今回の事件では意見を公に述べる「発言」と、組織から離れる「退出」が色々な関係者から示され、同時に全ての当事者が吉本自体は好きだという「忠誠」を表明していました。意外ですが、この発言、退出、そして忠誠が、全ての組織で「組織の不健康さを回復させるためのメカニズム」であるということを50年前にハーシュマンが分析しています(テキスト21章)。吉本の事例はこの理論が当てはまるかどうかを考える好例です。

 今後、吉本のお家騒動に嫌気して、お客さんやテレビ局が太田プロの芸人に鞍替えしたら、これは顧客による退出です。その結果吉本は芸人の管理手法をより良いものに変えるかも知れません。その前に、お客さんのネット等の発言クレームを聞きいれ、経営手法をなんらか変えるかも知れません。花王が昔から消費者相談室を24時間開き、CoCo壱番屋がクレームの手紙に賞金を出しているのも、自分たちの不適合を早めに見つけ出すためです。実際に今から40年前渡邉プロの全盛期に日本テレビに意見され、怒った渡邉プロがタレントを引き揚げ、結果として退出させられた日本テレビはホリプロに頼り、ホリプロが隆盛しました。

 従業員も同じく発言、退出が可能ですが、発言も退出も、組織に十分忠誠を誓っていた人がやると実効をあげやすく、そうではない人が行っても従業員の側に大きな弱みが発生し排除されるだけです。今回は大物が発言し若手が意見を言いやすくなりましたが、テキストでは、日本企業はヒトの発言のメカニズムを十分用意していないと指摘しています。

 自浄のため競争的な企業は花王のように発言も退出(=不買や退職)もサインと受け取るでしょうが、やくざの世界では発言も退出もできません。では家族ではどうか。ハーシュマンは、発言は可だが退出は不可と分析しています。昔の渡邉プロや今の吉本のように競争力の強い場合は、退出はできるが発言は不可としています。吉本の経営スタイルについては木村政雄「笑いの経済学」で一次情報が得られます。これらをあわせると、今の吉本興業がどのような組織であるのか今後どのように変われるのかを、予想することも可能になります。経営学は面白いです。(岩﨑)

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