テーマ:コラム

 夏の楽しみは冒険です。昨年は人づきあいが苦手で暑さもこりごりという僕と同じような人向けに、ノンフィクションを通じて人間社会のシステムの外側にでる活動=冒険を感じる事例を紹介しました。今年の夏休みは暑さにやられたのか活字を追うのもつらく、数年前のNHK大河ドラマを大人買いして見返しました。

 2016年に放映された「真田丸」全50回は、下請中小企業のような真田一族が、長いものに巻かれることなくその信念を通しながら生き残りを図っていく物語です。深慮と実行力をあわせ持ち武田家に仕えた一国衆(自治領を持つ武将)の真田昌幸が、武田家の滅亡後、織田、北条、上杉等の大大名を知略で手玉にとりつつ、主人公である二人の息子信幸と信繁と共にうそつき呼ばわりされても真田家の生き残りを図りつつ信念を貫きます。親子二代にわたり何度も徳川家康に局地戦で勝利を収める様は、昔から信繁の名前を幸村と置き換えて人気のあった物語で、最近の「下町ロケット」のような物語とも通じます。同時に時代の大きな変化に巻き込まれる悲劇も描いています。一部には主人公信繁を慕う女性がため口をたたくなど、時代劇としてはあり得ないとの批判もあったようですが、よく見ると理不尽な力と神頼みの中世から、統一武家政権による法的統治を目指した近世への時代の変わり目が時代考証を踏まえ描かれています。さらには戦国武将が力のみで支配したのではなく、領民との紛争解決等ある種合理的契約もどき(一揆)を重視していた実体もかいま見えます。

 脚本の三谷幸喜は、多様な性格の人間による大真面目な行動の結果、客観的には喜劇に見える長編群像ドラマが得意です。真田丸でも、圧倒的な人・もの・金をもつ天下人に対抗する人々として、プライドが高い人、すぐ妥協する人、直情の人、語らない人、部下を信じる人、絶対信じない人等歴史上の人物を自在にあてはめていきます。主人公一族の信念だけでなく、異なる目的を持つ他者や仲間との接し方や、情報の扱い方、場合によっては法律や契約の盲点をついてでも対抗するすべを、中小企業経営の理想像として描いているようにも見え、胸がすく思いです。同時に家業を承継する様々な親と子のお話です。

 ただし物語は物語。ドラマで元気が出たら、人間社会の内側を知るために、歴史的事実を正確に知ることも大切です。僕を含めて多くの団塊世代が、作家司馬遼太郎の圧倒的描写力と実在感で、現代に通ずる幕末や日露戦争にいたる明治期の社会的背景を読み違ってきました。数少ない検証できた事実の間を埋め興味深いフィクションを磨くのが作家、歴史的資料の正偽を探り確からしさを検証するのが研究者です。文献調査のプロ日本史研究者呉座佑一によれば、様々な歴史の真実と呼ばれる陰謀論は、証明できない事象に対し「因果関係の単純すぎる説明」と、「結果から逆行して原因を引き出す」特徴があり、「インテリ、高学歴者ほどだまされやすい」としています。これは戦国時代だけでなく、現代史の解釈や企業評価についても起こりやすい問題です。夏休みが終わったら、事実と向き合う姿勢を大学で学んでください。(岩崎)

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